三代絵巻のひとつ「信貴山縁起絵巻」をひもといてみましょう。信濃国の住人で絵巻の主人公命蓮(みょうれん)は東大寺で受戒を受けて後、奈良から未申の方角にある山・信貴山にこもりました。もとより、原始のままの世界である信貴山頂で人間が生活できるわけはありません。入山した命蓮をサポートしたのが、麓の百姓です。命蓮にとっては命の源である米が、百姓にとっては法力による加護が必要な要素です。この「聖」と「俗」との絶妙な交流によって、命蓮は修行に専念でき、百姓は豊かな実りを手に入れることができました。
しかし、交流の成果として「山崎の長者」と呼ばれるまでに富み栄えますと、百姓は毎日毎日山から飛んでくる飛鉢に食事を入れて命蓮の托鉢に応えるのが面倒くさくなってきました。そこである朝、鉢を倉に閉じ込めてしまいました。すると鉢は倉ごと全部信貴山山頂に運んでしまいました。こうして、都市と農村の交流は危機に瀕したのです。
しかし、事ここに至って初めて長者は彼の富の原因に気がつき過ちを悔いて、以後永遠に命蓮との交流をつづけたのでした。
遠く12世紀に成立したとされる信貴山縁起絵巻ですが、これは都市と農漁村交流の実に根本的な意味と意義を諭す「教典」に他なりません。
関東ツーリズム大学協議会委員
山梨大学名誉教授
1940年生まれ、山梨県出身
2004年より山梨大学名誉教授、専門は電磁界理論・情報伝送工学・プラズマ物理学。
NPO法人山梨情報通信研究所及びNPO法人山梨県キャリアコンサルティング協会の理事長も務める。
主な著書に、「えんぴつで奥の細道」(ポプラ社・2006年)、「核の時代をどう生きるか」(ポプラ社)、「コンピュータネットワーク」(技術評論社)、「科学技術と人間」(山日新聞社)
など。